日本の切手の始まり 本当にやってしまった凄い事

日本の切手の始まり 本当にやってしまった凄い事

時は明治4年。日本で郵便制度と言うものが設けられる事になりました。封筒に切手という物を貼り、定められた箱に入れておけば政府が配達してくれるという便利な制度で既に欧米諸国では実施されている物でした。とはいえ最初から日本全国すみずみまでとは行かず、とりあえず東海道の東京と京都の間で行われる事になったのですが、この制度を実施するには「切手」という物が必要で、それを作る事になったのですが何しろまだ明治政府は発足したてのほやほやで西洋の近代技術の導入は「これから」という時代です。さて、どんな切手が作られる事になるのか。これは、そんなすったもんだを繰り広げた明治時代初期の切手物語です。

発端

明治政府の民部省に仕えていた前島密は「駅逓権正」という役目をする事になりました。今風に言えば「郵便庁長官代行」と言った所です。これは以前から前島氏が希望していた事でもありました。英国、米国に行った事がある前島氏は欧米各国の郵便制度を見て「日本でもやってみたい」と思っていたのです。明治新政府では東京と京都の間の連絡を江戸時代から続く飛脚を使っており、その料金は毎月1500両という大金がかかっており、その料金が節約できるなら、という事で、前島氏に飛脚に代わる制度を作れ、という命令が下っていたのです。そこで前島氏は基本案を考案したのですが別件で英国へ行かなければならなくなり杉浦浦攘という人が「駅逓権正」を引き継ぎました。引き継いだ杉浦氏は前島氏の基本案を元に規則と料金を定め、いよいよ「切手」を用意する事になったのですが当時の明治政府には印刷を行う部門は無く民間に委託して原版を作り印刷してもらっていました。そこで杉浦氏も委託先の「松田玄玄堂」という銅板印刷屋を訪れました。

で、松田敦朝さんというご主人に「切手」の印刷を依頼したのですが

松田さん「何かみほんか何かありますかね?」

杉浦さん「あるよ。これ。前島さんが送ってくれた物だけど」

松田さん「えー! こんなに小さいんですか?」

杉浦さん「だって封筒に貼るんだよ。これくらいでないと貼れないでしょ?」

松田さん「あーなるほど。えーっとですねぇ。こんな小さいのを一枚づつ作ってたら大変すぎますんで、一回で沢山刷れるようにしてもいいですか?」

杉浦さん「出来るんなら何でもいいよ」

と言う訳で銅板一枚に横8列、縦5列に同じ図柄を並べて彫って一回に40枚づつ刷れるようにする事にしました。図柄は当時、民部省から依頼を受けていた民部省札という紙幣の下にある向かい龍の図柄をそのまま使う事にしました。

原版を作ろう

と言う訳で「切手」を作る事になった松田玄玄堂ですが、依頼された額面は48文、100文、200文、500文の4種類で、それぞれ茶、青、朱、緑で印刷し真ん中の額面は「全部黒字で」という依頼です。つまり2色で刷ってくれという事で、そうなるとデザインと額面は別々に印刷する事になるので別々の原版を作り試作してみました。で、出来上がったのが龍切手と呼ばれる事になる4種類でした。印刷面は縦横とも19mmです。

出来あがった切手を見て杉浦氏は大満足しました。何しろ縦横19mmという小さな正方形の中に実に細密な絵柄が綺麗に彫られていたからです。これは銅板に彫師が少しずつ線を彫っていき作り上げた物で、1枚の銅板に同じ柄が40枚彫られているのですが、こんなに細密な絵柄をよくもまぁ、こんな小さな正方形の中に収めたもんだと感心するばかりです。

しかも、さすが松田玄玄堂、ちゃんと偽物対策までしてありました。

松田さん「ほら、よく見て下さい。ここんとこ」

杉浦さん「ん? あれ? ここだけ微妙に他の文様と違うね」

松田さん「ええ。わざとそうしたんです。万一、偽物が作られても、この部分を見れば本物かどうか分かりますでしょ?」

杉浦さん「なるほど!」

これを「秘符」と言います。秘密ですから、ここには書けません。ですが額面毎に違う秘符が入っており、このおかげで現在でも龍切手は秘符があるかどうかで本物か偽物かを区別できるのです。もちろん秘符を知っていれば「秘符」の入った偽物も作る事が可能ですが、これまにでそういった例は確認されていません。なお、この秘符の具体的な内容を知りたい方は専門カタログを読めば内容を知る事ができます。

いよいよ使用開始

明治4年3月1日、いよいよ日本でも郵便制度が開始されました。もちろん切手はこの龍切手です。最初のうちは、よく分からなかった人達も分かってみれば便利でしたので段々と郵便は普及していきます。最初は東海道だけだった配達ルートもじわじわと全国に広がっていく勢いを見せていました。そして数ヶ月が過ぎ龍切手の原版もさすがに最初の物はガタが来てしまったので新規に原版が作られて使用されるようになりました。最初の原版で印刷された物を1版、新規の物は2版と呼ばれています。そんなある日、郵便取扱所という当時の郵便局の人は新しく配布された龍切手100文の40面シートを見ていて、ある事に気が付きました。

局員A「うーん、ちょっとこれ見て下さいよ」

局員B「え? 何?」

局員A「ほら、この一枚だけ右側の龍の手が一本、無いように見えるんですけど」

局員B「え? あー本当だ。これ1枚だけ書き忘れてるな」

局員A「一応、知らせときます?」

局員B「その方がいいだろう」

何しろ全部、彫師が手で彫った物です。ですので、中には彫り忘れも出てくる訳です。

松田玄玄堂は、それを聞くや、急いで100文切手の問題の部分の腕を彫り足します。

これを「腕落ち龍」と言って現在では切手マニアの間では一枚、2-3百万で取引されている「珍品」になっています。その他にも「龍のあご」「龍の頭の毛髪部分」など色々な彫り忘れがあちこちから報告されてきて、そのたびに原版を修正する、という作業が行われました。また2色印刷で、最初に龍の絵を印刷して後から別の版で額面を印刷したのでマニアの間では「可能性として額面を逆に刷ってしまった事も有り得るよね」と噂されていましたが、まさかそこまで間違える事はないだろう、と思われていたら1973年にアメリカで見つかった500文切手に「額面逆刷り」が発見され鑑定の結果「本物」と分かりました。やはりやってしまっていたのですね。

郵便は予想以上に普及のスピードが速く、その分、多くの切手を作らねばならず松田玄玄堂は切手をどんどん増産せねばならず、人手を増やして対応していましたが、それでも全て手作業で作られていたので、どうしてもビューマンエラーは避けられなかったのです。

龍切手の終了

明治5年1月に「新貨条例」というのが布告され通貨は文から銭と円に統一される事になりました。それに従い、龍切手も文から銭に変更され「龍銭切手」というのが発行されますが、同じ年の7月に予想以上の郵便の普及から龍切手の4額面ではもう、間に合わずシリーズが刷新される事になり、「桜切手」と呼ばれる新シリーズに移行し龍切手の製造、発行は終了します。僅か1年4ヶ月という短期間の生産、発行でしたが、こうして龍切手は現役を退きます。

その後

その後も松田玄玄堂は引き続き「桜切手」を同じ方法で生産し続けます。しかし明治5年9月に明治政府は切手の生産を強引に政府の工場に移してしまい松田玄玄堂から原版なども全て没収し政府の工場で生産を開始しました。これは切手という政府発行の有価証券の生産を民間に委託しているのは日本だけという面子上の問題と、予想以上に大きな物になってしまった郵便の需要に対応するには政府自らが乗り出さないとダメだという決意の表れとも言われます。しかし本格的な凸版印刷による切手の生産は、雇われ外国人のエドワルド・キョソネの指導の元、明治9年5月に発行される小判切手からとなり、それまでは銅板に職人が一つずつ彫刻して原版を作るという手法が継続されました。現在では、この一つ一つ職人が原版を作って印刷した切手は「手彫切手」と総称されています。

切手コレクターの登場

日本で切手を集める事を趣味とする人は当時、全くおらず、それは明治時代の後半に入ってからになります。しかし外国には既におり日本が発行する「手彫切手」に興味を示す人が沢山いました。なにしろ「全て手作りの切手」なんて世界でも類をみない存在だからです。そのため外国人コレクターから日本政府に「売って欲しい」という要望が次々と入ってきました。政府としては外国に売った切手は郵便には使われないので「売り得」ですから喜んで対応しました。実は現在、残されている手彫切手はこの時に外国コレクターに売った物が逆輸入され里帰りして来た物が多いのです。そしてコレクターが登場すると「ある事」に気が付きました。手彫切手は職人が1枚1枚の原版を全て、手で彫ったので40面シートの中の1枚1枚の図柄が微妙に違うのです。これを逆に捉えると「1枚の切手」であっても、その特徴を比較すれば元はシートのどこにあった物かが特定できるのです。

龍切手などはシートが残されているので、そのシートの写真さえあれば1枚の切手であっても絵柄の微妙な違いを比較して「元はシートの何番目の物だ」と特定する事によりバラバラの切手からシート全体を復元できることが分かりました。

これをリコンストラクションとかプレーティングと言いますが、手彫切手にしか出来ない楽しみで現在では手彫切手ではposナンバーと言って「元はシート上のどの位置にあった物」という事を明示して売り買いが行われる事も多くなっています。

日本初の郵便切手である龍文切手の美しさは世界の切手の中でも「芸術品」とまで呼ばれる位で今でも人気が高いシリーズです。しかも「彫り忘れ」や「シートの再構成」など色々な要素が一杯詰まったシリーズなので楽しみが尽きません。「凄く高いのでは?」と思われるかもしれませんが、龍切手は状態によりお値段の差が大きく1枚、数千円から数万円で買う事ができます。もちろん安いとは言えませんが絵画などの美術品に比較したら圧倒的に手頃な金額です。時間をかけて、じっくりと楽しむには最適なシリーズです。

しかし、よくもまぁこんな面倒な事をやったなぁと感心してしまう一方、いかにも日本人らしいと言う感じもします。もし興味がおありでしたら、まずは専門カタログを手に入れて下さい。そしてこういった切手を専門に扱っている切手商が数軒ありますので、その情報を入手すれば購入可能です。それは専門カタログの広告で分かります。

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